ギターを始めようと思った時、多くの方が最初に直面する疑問、それは「アコースティックギター(アコギ)とエレクトリックギター(エレキ)、自分にはどっちが合っているんだろう?」ということでしょう。
「アコギは基本だけど、指がすごく痛くなるって聞くし…」「エレキは見た目もカッコいいけれど、アンプとか機材が多くて難しそう…」そんな風に感じて、最初の一本を選ぶのに迷ってしまう気持ち、とてもよく分かります。ギター選びは、これからの音楽ライフを左右する大切な第一歩です。
この記事では、ギター選びで悩んでいるあなたのために、アコギとエレキ、それぞれのギターを始める上での「難しさ」の側面、そしてもちろん「楽しさ」や「メリット・デメリット」を、あらゆる角度から徹底的に比較し、解説していきます。
ギターの構造的な違いから、演奏に必要な指の力、サウンドの特徴、練習の進め方、そしてあなたが演奏したい音楽ジャンルとの相性まで、詳しく掘り下げていきます。この記事を読めば、きっとあなたにぴったりの一本が見つかり、自信を持ってギターライフをスタートできるはずです。最高の相棒を見つけるための完全ガイドとして、ぜひ最後までお付き合いください。
物理的な構造と演奏性の違いを徹底比較
アコギとエレキギターは、まずその音を出す仕組みが根本的に異なります。この構造の違いが、ギターの形や重さ、そして何よりも「弾きやすさ」という点で大きな差を生み出しています。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
ボディとネックの設計
ギターのボディ(胴体部分)とネック(指で弦を押さえる部分)の設計は、演奏時の快適さ、特にギターを抱えた時のフィット感や弦の押さえやすさに直接関わってきます。
アコースティックギター(アコギ)は、弦を弾いた時の音をボディ内部で響かせて大きくする必要があります。そのため、ボディは比較的大きく、厚みがあり、中は空洞になっているのが一般的です。この構造が、豊かで温かみのあるサウンドを生み出す源泉となります。しかし、体が小さい方や女性にとっては、この大きさが少し抱えにくく感じられるかもしれません。ネック部分に目を向けると、アコギは弦の張力(テンション)が強いため、それに耐えられるよう、一般的にエレキギターよりも太く、幅も広めに作られています。
一方、エレクトリックギター(エレキ)は、弦の振動をピックアップというマイクで拾い、電気信号に変換してアンプで音を増幅します。ボディ自体で音を響かせる必要がないため、多くは「ソリッドボディ」と呼ばれる、木材が詰まった薄い構造をしています。様々な形状のデザインがありますが、アコギと比較すると体にフィットしやすく、抱えやすいと感じる形状のものが多いでしょう。ただし、内部が詰まっている分、見た目のコンパクトさに反してアコギよりも重くなる傾向があります。ネックは、アコギほど強い弦の力に対応する必要がないため、薄く、幅も狭く作られていることが多く、手の小さい方でも握りやすいと感じる方が多いです。
アコースティックギター (アコギ) | エレクトリックギター (エレキ) | |
---|---|---|
発音原理 | ボディの共鳴 | ピックアップとアンプによる増幅 |
ボディ形状 | 大きく厚みのある中空ボディ | 薄く多様な形状のソリッドボディ |
ネック形状 | 厚く幅が広い傾向 | 薄く幅が狭い傾向 |
抱えやすさ(目安) | △(大きい) | 〇(コンパクトな形状が多い) |
握りやすさ(目安) | △(太め) | 〇(薄く狭め) |
このように、ボディとネックの設計思想の違いが、最初の「とっつきやすさ」に影響を与えることがあります。
弦のテンションと弦高
ギターの弦を押さえるのにどれくらいの力が必要かは、「弦のテンション(張り具合)」と「弦高(弦と指板=ネック表面の間の高さ)」によって大きく左右されます。これが、初心者が感じる「弾きやすさ」の最も大きな要因の一つです。
アコギは、その構造上、豊かで大きな生音を得るために、一般的にエレキギターよりも太い弦を使用します。それに伴い、弦のテンションも強く張られていることが多いです。弦高も、弦がボディやフレットに触れてビビらないように、比較的高めに設定される傾向があります。これらの要素が組み合わさることで、アコギの弦は「硬い」「押さえるのが大変」と感じられ、クリアな音を出すためには、しっかりとした指の力が必要になります。
対照的に、エレキギターはアンプによって音量を自由に調整できます。そのため、アコギほど弦自体の鳴りを追求する必要がなく、細くて柔らかい弦を使用することが一般的です。弦のテンションもアコギほど強くなく、弦高も低く設定しやすいという特徴があります。結果として、弦を押さえるのに必要な力がアコギに比べて格段に少なく、比較的軽いタッチで楽に押さえられます。
特徴 | アコースティックギター (アコギ) | エレクトリックギター (エレキ) |
標準的な弦の太さ | 太め (例: .012-.054) | 細め (例: .010-.046 or .009-.042) |
弦のテンション | 高い | 低い |
標準的な弦高 | 高め (例: 6弦12Fで2.5mm~3.0mm程度) | 低め (例: 6弦12Fで2.0mm~2.5mm程度) |
押弦に必要な力 | 大きい | 小さい |
この弦のテンションと弦高の違いは、特にギターを始めたばかりの時期に感じる「押さえやすさ」の差として、明確に現れます。
重量の違いと取り回し
ギターの重さや全体の大きさは、練習時の姿勢の維持や、スタジオやライブハウスへの持ち運びやすさにも関わってきます。
アコギはボディが大きいものの、中が空洞になっているため、見た目の印象よりは軽いものが多く、一般的には1kg台後半から2kg台程度の重さです。しかし、そのボディの大きさが、特に小柄な方が座って弾く際に、少し抱えにくさを感じる原因になることもあります。
エレキギターは、ボディが薄くコンパクトな形状が多い反面、木材が詰まったソリッドボディが主流のため、アコギよりも重くなる傾向があります。軽いもので2kg台後半、重いモデルでは4kg台後半になることもあります。立ってストラップで肩から提げて演奏する場合、この重さが長時間になると負担に感じられるかもしれません。
持ち運びの観点では、アコギは基本的にギター本体とケースがあれば音を出せますが、エレキギターの場合は、音を出すためにアンプや、ギターとアンプを繋ぐシールドケーブル、場合によってはエフェクターなども一緒に持ち運ぶ必要が出てきます。どちらのタイプがご自身の練習スタイルや体力、移動手段に合っているかを考慮することも、ギター選びの一つのポイントです。
指の力とフォームへの影響
ギターを弾きこなすためには、弦を正確に、そしてクリアな音が出るように押さえるための指の力と、正しいフォームを身につけることが不可欠です。この点においても、アコギとエレキでは要求されるレベルや感覚が異なります。
指の力の必要度
弦を押さえる(これを「押弦(おうげん)」と言います)ために必要な指の力は、アコギとエレキで明確な差があります。結論から言うと、アコギの方がより多くの指の力を必要とします。
アコギは、前述したように弦のテンションが強く、弦高も比較的高いため、弦をフレット(ネック上にある金属の仕切り)にしっかりと密着させて、きれいで濁りのない音を出すには、かなりの指の力が必要です。特に初心者のうちは、力が足りずに音がかすれてしまったり、「ビーン」というビビり音が出てしまったり、あるいは押さえている指が隣の弦に触れてしまってうまく音が出ない、といったことに苦労するでしょう。フレットのすぐ際(きわ)を、指の先端を立てるようにして押さえるのがコツですが、それでも最初のうちは相応の力が必要です。
一方、エレキギターは、弦のテンションが低く、弦高も低く設定しやすいので、アコギに比べるとはるかに軽い力で弦を押さえられます。指の力がまだ十分にない初心者でも、比較的簡単に目的の音を出すことができるでしょう。ただし、力を入れすぎると弦が微妙に引っ張られて音程がシャープ(高く)してしまうことがあるため、必要最小限の力で、かつ正確に押さえるという感覚を身につけることが大切になります。力を抜いて弾く練習が、エレキでは特に重要になる場面もあります。
指の痛みと対策
ギターを始めたばかりの頃、多くの人が経験するのが、弦を押さえる指先、特に左手の指先の痛みです。これは、まだ柔らかい指先の皮膚に、金属の弦が食い込むことによって起こります。
アコギの場合、使用する弦が太く硬いため、この指の痛みはほぼ避けられないと言っても過言ではありません。練習を続けていくうちに、指先に「タコ」と呼ばれる硬い皮膚ができてきて、徐々に痛みは和らいでいきますが、それまでには個人差はあるものの、少し時間が必要です。この痛みに耐えられずに、ギターを諦めてしまう人もいるほどです。
エレキギターは、使用する弦が細く柔らかいため、指の痛みはアコギに比べてかなり少ない傾向があります。全く痛くないわけではありませんが、痛みを感じる度合いは比較的軽く、指先にタコができるのも、アコギよりは緩やかに進むことが多いです。
指の痛みを少しでも和らげるための対策をいくつか紹介します。
- より細いゲージの弦に交換する: 特にアコギの場合、出荷時に張られている弦よりも細い「エクストラライトゲージ」などに交換すると、押弦がかなり楽になります。
- 正しいフォームを意識する: 必要以上に力を入れず、フレットの近くを垂直に押さえるように心がけることで、指への負担を減らせます。
- 休憩をこまめに挟む: 痛くなってきたら無理せず休憩し、指を休ませながら練習を進めましょう。長時間の連続練習は避けるのが賢明です。
- 弦高を調整してもらう: 楽器店に相談して、弦高を少し低めに調整してもらうと、押弦に必要な力が減り、楽に弾けるようになります。
指の痛みは一時的なものですが、これがギターを続ける上での大きな障壁にならないように、うまく付き合っていくことが重要です。
バレーコードとフォームの難易度
ギターのコード(和音)の中でも、特に初心者にとって大きな壁となりやすいのが「バレーコード(セーハとも呼ばれます)」です。これは、人差し指を使って複数の弦(時には6本全ての弦)を同時に押さえるコードフォームのことです。代表的な例としては、FコードやBmコードなどがあります。
このバレーコードは、アコギ、エレキどちらの初心者にとっても難しい関門ですが、一般的にはアコギの方がより難しいとされています。その主な理由は、やはり弦のテンションの強さです。張りの強い弦を、人差し指一本だけで均等な力でしっかりと押さえつけ、全ての弦からクリアな音を出すのには、かなりの力とコツが必要になるためです。最初はなかなか全ての弦が綺麗に鳴らず、苦労する人が多いです。
エレキギターは、弦のテンションが低く弦高も低いため、バレーコードを押さえる際の物理的な負担はアコギよりも軽くなります。もちろん、エレキでもバレーコードを綺麗に鳴らすには練習が必要ですが、アコギに比べると、指の力という点でのハードルは低いと言えるでしょう。ロック系のジャンルでは、バレーコードの代わりに、より簡単に押さえられる「パワーコード」(後述します)が多用されることも、エレキの方がコードの壁を感じにくい一因かもしれません。
バレーコードを攻略するためのヒントをいくつか紹介します。
- 力任せに押さえない: 指の力だけでなく、腕全体の重みを使うイメージで押さえます。
- 人差し指の側面を使う: 指の腹ではなく、少し硬い側面の部分を使うと、弦を均等に押さえやすくなります。
- 親指の位置を意識する: ネックの裏側、人差し指の真裏あたりに親指を置き、ネックを挟み込むように支えます。
- 手首の角度を調整する: 手首を少し前に出すように角度をつけると、人差し指に力が入りやすくなります。
- ギターのネックを少し立てる: ギターを水平に構えるのではなく、ヘッド側を少し上に傾けると押さえやすくなることがあります。
最初は難しく感じるバレーコードですが、正しいフォームを意識し、諦めずに練習を続ければ、必ず押さえられるようになります。
サウンドと練習時の違い
アコギとエレキでは、音を生み出す仕組みそのものが違うため、聞こえてくるサウンドの質はもちろん、練習中のミスの聞こえ方や、音量調整のしやすさなど、練習環境に関わる部分でも大きな違いがあります。
音の出し方の根本的な違い
アコギとエレキの最も根本的な違いは、音をどのようにして「発生」させ、そして「増幅」させているか、という点にあります。
アコースティックギター(アコギ)は、あなたが弦を弾いたときに生まれる振動が、ブリッジ(弦をボディに固定している部品)を通じてボディトップ(表板)に伝わります。そして、その振動がボディ内部の空洞で共鳴し、増幅されて、サウンドホールと呼ばれるボディ中央付近の穴から、アコースティックな(=生楽器としての)音として直接外に出てきます。つまり、ギター本体そのものが音を大きくする役割を担っているため、アンプなどの外部機材は基本的に必要ありません。その音色は、ボディに使われている木材の種類(スプルース、マホガニー、ローズウッドなど)や、ボディの形状、大きさによって大きく左右され、温かみのある自然な響きが特徴です。
エレクトリックギター(エレキ)は、弦の振動を、ボディに取り付けられた「ピックアップ」という磁石とコイルでできたマイクで拾います。ピックアップは弦の振動を非常に微弱な電気信号に変換します。このままでは音が小さすぎるため、シールドケーブルという専用のコードを使って「ギターアンプ」という音響機材にその電気信号を送ります。アンプは、送られてきた電気信号を受け取り、音色を調整(トーンコントロール)したり、音量を大きく増幅したりして、最終的にスピーカーから音を出します。そのため、エレキギターはギター本体だけでは「シャラシャラ」というような、非常に小さな音しか出ません。最終的に聞こえるサウンドは、ギター本体の特性(木材、ピックアップの種類など)に加えて、使用するアンプの種類や設定、さらには「エフェクター」と呼ばれる音を加工する機材(歪み系、空間系など)を使うかどうかによって、非常に多彩に変化させることが可能です。
ミスの聞こえ方
ギターの練習中には、誰しもミスをするものです。弦をうまく押さえられずに音がビビってしまったり、違う弦に指が触れてしまって音が詰まったり…。こうしたミスの聞こえ方にも、アコギとエレキでは違いがあります。
アコギは、楽器自体から直接音が出ているため、演奏のアラが比較的はっきりと聞こえます。押弦が甘くて弦がフレットに当たって「ジジッ」と鳴るビビり音や、不要な弦に触れてしまって音がミュート(消音)されてしまった状態などが、ごまかしにくく、自分の耳で直接確認しやすいと言えます。これは、自分の演奏のどこが良くないのかに気づきやすく、それを修正していく練習につながるため、基礎的な技術をしっかりと身につける上ではメリットと捉えることもできます。
エレキギターの場合、アンプに繋がずに弾いた時の「生音」は非常に小さいです。そのため、アンプを通さない状態では、自分が正確にピッキングできているか、しっかりと弦を押さえられているかの判断が少し難しい場合があります。アンプに繋いで音を出した際の聞こえ方は、アンプのセッティングによって変わってきます。
- クリーンな音(歪ませていない、澄んだ音)の場合: ミスの聞こえ方はアコギと比較的似ています。押弦の甘さによるビビリや音詰まりなどは、それなりに分かりやすいでしょう。
- 歪ませた音(ディストーションやオーバードライブなど、ロックで多用されるジャリジャリした音)の場合: 音を歪ませると、サスティーン(音の伸び)が増し、音が圧縮される効果もあるため、ピッキングの強弱のムラや、多少の押弦の甘さ(ビビリなど)は、クリーンな音に比べると目立ちにくくなることがあります。あたかも「うまく弾けている」かのように聞こえてしまう側面もあります。しかしその反面、弾いていないはずの弦が勝手に鳴ってしまう「ノイズ」は、歪ませることによって増幅され、非常に目立ちやすくなります。これを防ぐためには、弾かない弦の振動を右手の手刀部分(ブリッジミュート)や左手の指の腹などで的確に抑える「ミュート」というテクニックが極めて重要になります。
エレキギター、特に歪んだサウンドで演奏する場合は、押弦のミスは多少ごまかしが効くかもしれませんが、ミュートができていないことによるノイズは、アコギ以上にシビアに聞こえてしまう、という特徴があるのです。
音量のコントロール
ギターを自宅で練習する上で、特にマンションやアパートなどの集合住宅にお住まいの場合、気になるのが練習時の「音量」です。この点においても、アコギとエレキには大きな違いがあります。
アコギは、生音が比較的大きいため、練習する時間帯や場所を選ぶ必要があります。特に壁の薄い部屋での練習や、夜間の練習は、近隣への騒音問題に繋がる可能性があり、十分な配慮が欠かせません。サウンドホールを塞いだり、ブリッジに取り付けたりするタイプの「弱音器(サイレンサー)」も市販されていますが、音量を劇的に下げる効果は限定的で、音質も変わってしまうことが多いです。
エレキギターは、アンプに繋がなければ、前述の通りほとんど音がしません。テレビの音よりもずっと小さいくらいの音量です。そして、アンプを使用すれば、ボリュームつまみで音量を自由に、かつ細かく調整できます。さらに、ほとんどのギターアンプにはヘッドフォン端子が搭載されています。ここにヘッドフォンを接続すれば、スピーカーからは一切音を出さずに、自分だけにしっかりとしたギターサウンドが聞こえる状態で練習に集中できます。これは、時間帯や周囲の環境を気にせずに練習したい人にとって、エレキギターの非常に大きなメリットと言えるでしょう。
アコースティックギター (アコギ) | エレクトリックギター (エレキ) | |
---|---|---|
生音の大きさ | 大きい | 小さい |
音量調整 | 基本的に調整は難しい | アンプで自由自在 |
静音練習 | 難しい(弱音器の効果は限定的) | ヘッドフォン使用で容易 |
練習環境への配慮 | 必要 | ヘッドフォンを使えば基本的に不要 |
練習環境が限られている方にとっては、音量コントロールのしやすさは、ギター選びの重要な判断基準になるでしょう。
練習テクニックと習得ルートの違い
アコギとエレキでは、それぞれで得意とする音楽ジャンルやサウンドが異なるため、よく使われる演奏テクニックや、初心者が最初に練習する内容、そしてその後の上達の道のりにも違いが見られます。どちらのギターを選ぶかによって、あなたが最初に触れるテクニックや、目指していくプレイスタイルが変わってくるかもしれません。
コードとストローク
ギター演奏の基本中の基本とも言えるのが、左手でコード(和音)を押さえ、右手でピック(または指)を使って弦をまとめて弾く「ストローク」です。この基本的な動作にも、アコギとエレキでは若干の違いがあります。
まず、コードを押さえるという行為自体は、やはり指の力が必要なアコギの方が、最初のうちは難しく感じられるでしょう。指が痛くなったり、力が足りなくて音が綺麗に出なかったりすることに、より苦労するかもしれません。一方、エレキは比較的軽い力で弦を押さえられるため、コードの「形」を覚えて指をその形に持っていく、という点においては、アコギよりもスムーズに進むことが多いです。
ストロークの基本的な動き、つまりピックを振り下ろす「ダウンストローク」と、振り上げる「アップストローク」を組み合わせてリズムを刻むこと自体は、アコギもエレキも共通です。しかし、求められるニュアンスや意識するポイントが少し異なります。
アコギの場合は、ギター本体の鳴りを最大限に引き出し、しっかりとした音量を得るために、ある程度力強いピッキング(ピックで弦を弾くこと)が求められることが多いです。ピッキングの強弱が、そのままダイレクトに音量や音色の変化に繋がるため、表現豊かに弾き語りをするためには、ダイナミクス(強弱)をコントロールする技術を磨くことが重要になります。この経験は、音楽的な表現力の基礎を養う上で役立ちます。
エレキの場合は、アンプで音量を増幅できるため、アコギほど力強いピッキングをしなくても、十分な音量が得られます。むしろ、軽いタッチで正確にリズムを刻むことが求められる場面も多いです。ストロークの強弱だけでなく、アンプのボリュームを操作したり、歪みの量を調整したりすることで、ダイナミクスをコントロールする方法を学ぶことになります。特にカッティング(歯切れの良いリズムプレイ)などでは、右手のミュートとピッキングのコンビネーションが重要になります。
リフと単音弾き
ギターの魅力の一つに、歌のメロディのような旋律を奏でる「単音弾き」や、曲の中で繰り返される印象的な短いフレーズ「リフ」があります。これらの奏法においても、アコギとエレキでは弾きやすさや注意点が異なります。
単音弾きに関しては、一般的にエレキの方が楽に感じられるでしょう。弦高が低く、弦のテンションも弱いため、左手で弦を押さえやすく、クリアな音を出しやすいからです。指を弦に叩きつけて音を出す「ハンマリング・オン」や、押さえた弦を引っ掻くようにして音を出す「プリング・オフ」といった、レガート奏法と呼ばれるテクニックも、弦が押さえやすいエレキの方が少ない力でスムーズに行えます。
簡単なリフの習得も、押弦のしやすさからエレキの方が早く感じられるかもしれません。特にロックやポップスで多用される、後述する「パワーコード」を使ったリフは、比較的簡単な指の形で構成されていることが多く、初心者でも取り組みやすいでしょう。
しかし、エレキギター、特に音を歪ませてリフや単音弾きをする場合には、前述した「ミュート」の技術が非常に重要になります。歪んだサウンドでは、弾いていない弦が少し触れただけでも、意図しないノイズとして大きく鳴ってしまうためです。右手の手刀や指、左手の空いている指などを巧みに使って、鳴らしたくない弦の振動を常に抑えておく必要があります。このミュート技術の習得は、エレキギター、特にロック系のジャンルを目指す上では避けて通れない道であり、アコギの練習とはまた違った難しさがあります。アコギでもある程度のミュートは必要ですが、エレキ、特にハイゲイン(強く歪ませた)サウンドにおいては、その重要度が格段に上がります。
表現力に直結するテクニック
ギターの演奏をより表情豊かにするためには、様々な特殊奏法やテクニックが使われます。その中には、アコギが得意とするもの、エレキが得意とするものがあります。目指す音楽スタイルによって、習得すべきテクニックやその優先順位も変わってきます。
- パワーコード:
- 主にエレキギター、特にロック、パンク、メタルなどのジャンルで頻繁に使われる、非常にシンプルなコードフォームです。通常、人差し指と薬指(または小指)の2本、あるいは3本の指だけで押さえられ、ルート音と5度の音(場合によってはオクターブ上のルート音も)だけで構成されます。響きが濁りにくく、歪ませたサウンドとの相性が抜群です。初心者でも比較的早く習得でき、すぐに好きなロック曲のリフなどを弾けるようになるため、モチベーションを維持しやすいテクニックの一つです。アコギでは、響きの豊かさに欠けるため、あまり使われることはありません。
- フルコード(オープンコード、バレーコード):
- アコギの弾き語りなどでは、6本の弦すべて(あるいはそれに近い本数)を鳴らして、豊かで広がりのある響きを得ることが重視されます。C、G、D、Am、Emといった基本的な「オープンコード」や、前述した「バレーコード」がこれにあたります。コードの構成音が多く、複雑な響きを作り出せます。エレキギターでももちろん使いますが、ジャンルや曲調によっては、パワーコードの方がサウンド的に適していると判断され、優先されることもあります。
- フィンガースタイル(指弾き):
- ピックを使わずに、右手の指(親指、人差し指、中指、薬指など)を使って弦を弾く奏法です。主にアコースティックギター(特にフォーク、カントリー、ブルース、クラシックギターなど)でよく用いられ、ベース音とメロディ、伴奏を同時に弾くなど、一人で複雑なアンサンブルを作り出すことができます。繊細なニュアンスや、温かみのあるトーンを表現するのに適しています。エレキギターでもフィンガーピッキングは用いられますが(特にジャズやカントリーなど)、アコギとはまた違ったサウンドやテクニックが求められることが多いです。
- チョーキング(ベンディング)とビブラート:
- これらはエレキギターの表現において非常に重要なテクニックです。チョーキングは、弦を押さえたまま指で弦をネックに対して垂直方向に押し上げ(または引き下げ)て、音程を滑らかに変化させるテクニックです。「泣きのギターソロ」などで多用されます。ビブラートは、チョーキングと同様の動きや、弦を左右に揺らす動きによって、音を揺らして表情をつけるテクニックです。弦が細く柔らかいエレキギターでは、これらのテクニックは比較的容易に行えますが、標準的な太さの弦が張られたアコギで同じような効果を得るのは、弦のテンションが高いため非常に困難です(ブルースなどでライトゲージ弦を使って行うこともありますが、一般的ではありません)。
このように、あなたがどんな音楽を弾きたいかによって、必要となるテクニックや、それぞれのギターの適性が異なってきます。
ジャンル別の適性と選び方
結局のところ、「アコギとエレキ、どっちがいいの?」という問いに対する最も重要な答えの一つは、「あなたがどんな音楽を演奏したいか?」にかかっています。それぞれのギターには、得意とする音楽ジャンルがあります。
アコギが輝く音楽ジャンル
アコースティックギターは、そのナチュラルで温かみのある、時に繊細で、時に力強い生音の響きから、以下のような音楽ジャンルで中心的な役割を果たしたり、その魅力を引き立てたりします。
- フォークソング: 弾き語りの定番中の定番。ボブ・ディランや吉田拓郎のように、歌詞とメロディをシンプルかつ情感豊かに伝えるのに最適です。
- シンガーソングライター: 自分で作詞作曲した歌を、ギター一本で弾き語るスタイルに最もフィットします。
- カントリーミュージック: 軽快なリズムとどこか懐かしいメロディには、アコギ(やバンジョー、マンドリンなど)のサウンドが欠かせません。
- ブルース(アコースティック): デルタブルースに代表されるような、泥臭く、魂のこもったブルースの表現には、アコギ(特にリゾネーターギターなども含む)がよく似合います。
- ポップス(アコースティックアレンジ): J-POPや洋楽ポップスでも、原曲をアコースティックバージョンにアレンジして、しっとりと聴かせたり、温かい雰囲気を出したりする際に活躍します。
- クラシックギター(ガットギター): ナイロン弦を使用し、指で弾くことを基本とするクラシックギターも、広義にはアコギの一種です。より柔らかく、甘い音色が特徴です。
- ブルーグラス: フィンガーピッキングやフラットピッキング(ピックを使った速弾き)による超絶技巧が繰り広げられるジャンルでも、アコギが主役です。
- ボサノヴァ: ナイロン弦ギターで奏でられる、洗練されたハーモニーと心地よいリズムが特徴です。
もしあなたが、こうしたジャンルの音楽に憧れていたり、弾き語りをしてみたいと考えているなら、最初の一本としてアコースティックギターを選ぶのが最も自然な選択であり、練習のモチベーションも高く維持しやすいでしょう。
エレキが主役の音楽ジャンル
エレクトリックギターは、アンプやエフェクターと組み合わせることで、クリーンで澄んだ音から、激しく歪んだ音、空間的な広がりを持つ音まで、非常に幅広いサウンドを生み出すことができます。その汎用性の高さから、現代のポピュラー音楽の多くのジャンルで活躍しています。
- ロック: エレキギターの代名詞とも言えるジャンル。歪んだギターサウンド(オーバードライブ、ディストーション)は、ロックのエネルギーを表現する上で必須と言えます。
- ハードロック / ヘヴィメタル: より激しく、重厚で、テクニカルなギタープレイが求められます。ハイゲインな歪みサウンドや、速弾き、タッピングなどの高度なテクニックが多用されます。
- パンクロック: シンプルでストレート、荒々しいロックサウンドが特徴です。簡単なパワーコードを主体としたリフが多いです。
- ブルース(エレクトリック): B.B.キングやエリック・クラプトンのように、泣きのチョーキングや表現力豊かなビブラートなど、エレキギターならではの感情表現が魅力です。
- ジャズ / フュージョン: セミアコ(ボディ内部に空洞を持つエレキ)やフルアコ(アコギに近い構造のエレキ)が使われることも多く、クリーンで洗練されたトーンから、甘くメロウなトーン、時にはファンキーなカッティングまで、幅広いサウンドが求められます。
- ポップス: バンドサウンドの要として、コードバッキング(伴奏)から印象的なリフ、メロディアスなギターソロまで、曲中で様々な役割をこなします。
- ファンク: ジェームス・ブラウンやシックに代表されるような、16ビートの歯切れの良いカッティング奏法が特徴的です。
- インディーズロック / オルタナティブロック: 型にはまらない自由な発想で、エフェクターなどを駆使したユニークなサウンドメイクが行われ、個性的な音楽性を表現します。
- R&B / ソウル: スムースなコードワークや、メロウな単音フレーズで、楽曲に彩りを加えます。
もしあなたが、これらのジャンルの音楽、特にバンドサウンドの中で鳴っているギターの音や、歪んだギターサウンドが印象的な音楽に強く惹かれるのであれば、最初からエレクトリックギターを選ぶのがおすすめです。自分が好きな音楽で使われているサウンドやテクニックを、直接的に学び、再現していくことができます。
専門家の意見と経験談から見る選び方
ギターを教えている講師や、長年ギターを弾いている経験豊富なプレイヤーの間でも、「初心者はアコギとエレキ、どちらから始めるべきか?」というテーマについては、実は様々な意見が存在します。どちらの意見にも、それぞれの根拠とメリットがあります。
エレキ推奨派の意見
エレクトリックギターから始めることを推奨する人たちの意見には、以下のような理由が挙げられることが多いです。
- 物理的な弾きやすさ: 何と言っても、弦がアコギに比べて格段に押さえやすく、指が痛くなりにくい。これが最大のメリットであり、初期の挫折を防ぎやすいと考えられています。「痛いからやめた」となるリスクを減らせます。
- 静音練習ができる: ヘッドフォンを使えば、深夜でも隣の部屋を気にすることなく、好きなだけ練習に没頭できます。練習時間を確保しやすいのは、上達への近道です。
- サウンドの多様性と楽しさ: アンプのセッティングを変えたり、比較的安価なエフェクターを一つ加えるだけでも、様々な音色に変化させることができ、飽きにくい。「カッコいい音」が出せると、練習も楽しくなります。
- モチベーションの維持しやすさ: パワーコードなど、比較的簡単なテクニックで、好きなロックバンドの曲のリフなどをすぐに弾けるようになることが多く、達成感を得やすい。「弾ける!」という喜びが、次の練習への意欲に繋がります。
これらの意見の背景には、「まずはギターを弾くこと自体の楽しさを知ってほしい」「難しいこと、辛いことは後回しにして、初期のハードルはできるだけ低い方が、結果的に長く続けられる」という考え方があります。
アコギ推奨派の意見
一方で、アコースティックギターから始めることを推奨する人たちの意見には、以下のような理由が挙げられます。
- シンプルさと手軽さ: ギター本体さえあれば、アンプやケーブル、電源などの周辺機材は不要です。思い立ったらすぐに手に取って弾き始められ、機材に関する知識やセッティングの手間もありません。
- 基礎的な筋力と技術の養成: 弦を押さえるのにある程度の力が必要なため、自然と左手の指の力が鍛えられます。しっかりとした音を出すためには、右手のピッキングもある程度の強さや正確さが求められるため、基礎的なピッキング技術が身につきます。
- 音楽的な表現力の基礎が学べる: ピッキングの強弱やタッチが、ダイレクトに音量や音色の変化となって現れるため、自分の指先で音楽的な表現を生み出す感覚を養いやすいと考えられています。
- 応用が利きやすい: アコギで培ったしっかりとした押弦の力やピッキングの技術は、後にエレキギターを弾く際にも必ず役立ちます。「アコギが弾ければエレキは楽に弾ける」と言われることもあります(ただし、エレキ特有のテクニックは別途習得が必要です)。
- ギター本来の鳴りを体感できる: アンプを通さない、木材と弦が作り出す自然な響きに触れることで、ギターという楽器そのものの魅力を感じやすいという意見もあります。
こちらの意見の背景には、「最初に基礎的な技術や体力をしっかりと固めることが、長期的な上達のためには重要」「ごまかしの効かない環境で練習することで、より確かな実力が身につく」「まずは楽器本来のシンプルな音を体験してほしい」といった考え方があります。
結局のところ、どちらの意見にも一長一短があり、どちらが絶対的に正しいということはありません。大切なのは、これらの様々な意見を参考にしつつも、最後はあなた自身の「これを弾きたい!」「こっちの方がカッコいい!」という純粋な気持ちを最も優先することです。
ギターを選ぶためのチェックリスト
さて、ここまでアコースティックギターとエレクトリックギターについて、様々な角度から比較検討してきました。それぞれの特徴、難しさ、楽しさが見えてきたかと思います。最終的にどちらのギターを選ぶかは、あなた自身の好みや環境によって決まります。
以下のチェックリストを使って、もう一度ご自身の状況や希望を整理し、あなたにとって最適な一本を見つけるためのヒントにしてください。
最終確認のための質問
- あなたが最も弾いてみたい音楽ジャンルは何ですか?
- □ 弾き語り、フォークソング、シンガーソングライター系の音楽
- □ ロック、ポップス、ブルース、ジャズなどバンドサウンドが中心の音楽
- □ 特にジャンルは決まっていない、色々な音楽を弾いてみたい
- 憧れているギタリストや好きなアーティストは、主にどちらのタイプのギターを使っていますか?
- □ 主にアコギを使っている
- □ 主にエレキを使っている
- □ どちらも使っている、または特にいない
- 主な練習場所の音環境はどうですか?音量は気になりますか?
- □ ある程度大きな音を出しても問題ない環境
- □ 音量はできるだけ抑えたい、または夜間に練習することが多い
- 弦を押さえる指の痛みについて、どれくらい心配ですか?
- □ 指が痛くなるのは、できるだけ避けたい
- □ ある程度の痛みは覚悟している、乗り越えられると思う
- ギター本体以外に必要な機材(アンプ、ケーブルなど)の準備や操作について、どう感じますか?
- □ できるだけシンプルに、ギター本体だけですぐに始めたい
- □ アンプやエフェクターなど、機材も含めて色々と試してみたい
- ギター購入にかけられる予算は、大体どのくらいを考えていますか?
- □ まずはギター本体のみで、なるべく費用を抑えたい(アコギの方が初期費用は抑えやすい傾向)
- □ ギター本体に加えて、アンプなどの周辺機材も含めた予算を考えている(エレキの場合)
- 見た目のデザインや形で、直感的に「カッコいい!」「可愛い!」と感じるのはどちらのタイプですか?
- □ アコースティックギターの形や木の質感に魅力を感じる
- □ エレクトリックギターの多様な形やカラーリングに魅力を感じる
これらの質問に答えてみて、どちらのタイプのギターにチェックが多く付いたでしょうか?それが、現時点でのあなたにとって、より適している可能性が高いギタータイプと言えるかもしれません。
迷ったら楽器店へGO!
もし、ここまでの情報を読んでもまだ迷ってしまう…という場合は、ぜひ一度、楽器店に足を運んでみることを強くおすすめします。
実際にアコギとエレキの両方を手に持ってみて、重さや抱え心地、ネックの握り具合などを体感してみてください。可能であれば、店員さんに頼んで少しだけ音を出させてもらう(試奏する)と、さらに違いがよく分かります。
楽器店の店員さんはギターに関する知識が豊富なので、あなたの好みや状況を伝えれば、親身になって相談に乗ってくれるはずです。「初心者なんですけど、アコギとエレキで迷っていて…」と正直に話してみましょう。きっと、あなたに合ったギター選びのアドバイスをもらえます。
最終的には、理屈だけでなく、あなたが「これだ!」と感じる直感やフィーリングも大切にしてください。
まとめ
アコギとエレキ、結局のところ「どっちが難しいか?」という問いに対して、万人に共通する絶対的な答えはありません。それぞれに異なる種類の難しさ、そしてそれを乗り越えた時の楽しさがあるからです。
アコースティックギターは、弦を押さえるための指の力がある程度必要で、特に最初のうちは指先の痛みに悩まされるかもしれません。しかし、機材がシンプルで手軽に始められ、ピッキングのニュアンスなど音楽表現の基礎力が自然と養われるという側面があります。
エレクトリックギターは、弦が押さえやすく指の痛みは比較的少ない傾向にあり、ヘッドフォンを使えば時間や場所を選ばずに練習できるという大きなメリットがあります。一方で、アンプやエフェクターといった周辺機材が必要になり、その操作に慣れる必要があったり、歪ませたサウンドではノイズ対策(ミュート)など、エレキ特有のテクニックや難しさも存在します。
どちらのギターを選ぶにしても、最も大切なのは、あなたが「このギターで、あの曲を弾けるようになりたい!」「このサウンドを出してみたい!」と心から思えるかどうかです。物理的な弾きやすさや難易度ももちろん重要ですが、最終的にあなたの上達を支え、練習を続ける原動力となるのは、その「弾きたい!」という強いモチベーションに他なりません。
この記事が、あなたが最高のパートナーとなる最初の一本を見つけ、ワクワクするようなギターライフをスタートさせるための一助となれば幸いです。どちらの道を選んだとしても、ギターを弾くことの楽しさは格別です。そして面白いことに、多くのギタリストは、最終的にアコギもエレキも、両方の魅力に気づき、愛用するようになります。最初の一歩は、あなたの素晴らしい音楽の旅の、ほんの始まりに過ぎません。ぜひ、自信を持って、その一歩を踏み出してください。